「堀江はるよのエッセイ」 〜日常の哲学・思ったこと考えた事〜 |
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九の巻 宙ぶらりん 360度 エニスホール |
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宙ぶらりん |
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もしかして十年かかるかも…と言っていた神楽笛の曲が完成した。 続いて龍笛と楽琵琶の曲も書いて、もうどちらも演奏者の手に渡っている。 十年というのは、自分で自分を脅かしたようなところが無くもない。 書けないかもしれない…書けても十年かかるかもしれないと、思い切り自分を 怖がらせると、窮鼠が猫を噛んだ格好で、心配のあまり早々と糸口を見つけて しまったりする。そういえば、今までもそうだった。 ギターのための曲はギター語で、リコーダーのための曲はリコーダー語で書く。 同じように、笛は笛の、琵琶は琵琶の言葉で書いたが、話しているのは私で、 楽器の国籍が変わったら話し方まで変わった…ということは無い。 日本の音律は私にとって「ふるさとの訛り」で、書いていて楽だった。 私の場合、洋楽の楽器の曲は、力技で書き進めることも出来る。 たとえば娘の弾くピアノがガンガン聞こえてくる中で、オルガンにしがみついて 弦楽四重奏を書いたりもして来たけれど、邦楽の楽器の曲は、そういうふうには 書けない。笛の曲を書くのに、最初にしたのは家の片付けだった。 家の中を片付け、わさわさと層を成すほど溜まっていた雑用を整理しながら、 心の中からも、せわしない苛立った気持や、自分を小さい所に押し込めてしまう 無意識の卑下、自分をおとしめる気持を、見つけては、取り除けていった。 曲について考えている間、私は、妙な例えだが、むかし中学の生物の時間に習った ハントーセーシツマク(半透性・脂質膜?)みたいなものになっていた気がする。 私の片側に日常があり、反対側には作曲の世界があって、その間に膜がある。 ふつうに暮らす中で感じた様々な気持から、私は私の音楽を作るのだけれど、 ザラッとした粗い気持は、膜を通らない。「自分として純度の高い気持」だけが、 膜を通って私の音になり、私の音楽になる。 「自分として純度が高い気持」は、なりふり構わない自己主張とは違う。 いわゆる「純粋な考え」とも違う。正直とも少し違う。綺麗な考え方でもない。 心を正して自分と向き合ったときに、これはどうしても、このまま言いたい、 これが自分にとっての真実だ…と思える気持、とでも言おうか。 日常から作曲の世界へ、日常から作曲の世界へと、海水から塩でも作るように、 感じること、心に浮かぶことから音を作ってきたのが、曲が出来て、ふと終った。 膜の片側の世界がパッと無くなって、日常だけが残った。 なんだか気持が、宙ぶらりんだ。 中断した作業の代わりに、エッセイを書いたりしている。 |
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360度 | |||
知り合いの女子高生に、言葉遣いの可笑しな子がいた。 “360度かわっちゃったぁ!”なんて言う。 それって180度でしょ…360度じゃクルッとまわって元通りだと 思うけれど、私はこの表現が、なんだか好きだ。 自分の人生は、もう行き止まりなんじゃないかと…思うようなときに、 袋小路で180度方向転換してみても、いま来た道を逆戻りするだけ。 それならいっそ、360度まわってみたら、螺旋状に上に跳ね上がって、 思いがけない景色に出会えるかもしれない…そんな気がしませんか? この子は素晴らしいバストの持ち主で、でもそれを更に美しく見せたくて、 ある日、例の、一とき流行ったバスト・アップのブラジャーを付けたのです。 娘が道で出会って、報告して曰ク。“バストが邪魔して、近づけなかった!” そんなに一生懸命に自己表現する心根、可愛いじゃありませんか。 ボーイフレンドが出来るたびに、報告が入る。 フラれては…よみがえり、フラれては…よみがえり、フラれては…の 十数年を経て、とうとう自分にあった人と出会って家庭を持った。 にぎやかな家庭だろうなぁ。 360度、螺旋状に方向転換しながら、彼も彼女も子どもたちも、 上昇気流に乗って、みんなでクルクルまわっているんじゃないかしら。 2006.10.1 |
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エニスホール | |||
どうやら私の人生も、360度まわってジャンプしたらしくて、 9月にCDの制作がスタートして、11月初めに録音を終えた。 私も、歌の伴奏を三つと、ピアノのソロを一つ弾いた。 伴奏は仕事にしていたこともあるが、ソロの録音は初めてだ。 自分の作品だけれど、時間をかけて丁寧に練習をした。 書くのと弾くのは違う。 一週間前に、会場のエニスホールを、自分だけのために借りて、 スタインウェイのコンサート用グランドピアノと、半日ゆっくり向き合った。 録音技師さんが来て、音の具合を聴いてくれた。 かさ高い人というのが居るけれど、彼はその逆で、そっと来て、 そっと座る、マイクの位置を探して、そっと歩く。 広い空間に、自分の弾いた音が飛んでゆくのが、楽しかった。 ときどき体をほぐしながら、ソロを中心に何度か弾く。 4時間は、すぐ経ってしまった。 ホールを出ると、周りは田んぼ。 宇都宮線は、田園風景の中を走る。 都心まで80分ほど。乗客は皆うつらうつらしている。 私も、うつらうつらと帰ってきた。 ピアノ、好きだなぁ 楽しかったなぁ 2006.12.1 |
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堀江はるよ公式サイト・エッセイで描く作曲家の世界 <カタツムリの独り言>
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