録音その一 |
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組曲「鶴によせて」「野の花による小曲集」の録音を終えた。
楽器はリコーダーとピアノ。会場は富士見市民文化会館のメインホール。
リコーダーは江崎浩司さん、ピアノは私。録音はスタジオ・プラン*プランの
小川洋さん、調律は按田泰司さん。按田さんには全録音時間、立会って頂いた。
良きメンバーに支えられて、私はこの数か月一心に伸ばしてきた演奏の力を
全て使って、のびのびとピアノを弾くことが出来た。
* * *
一日仕事なので、食事は昼は和風、夜は洋風の駅弁を用意。
廊下の一隅にポットとティーバッグ、コーヒー、紙コップ、お菓子など置いて、
これが休憩コーナー。失敗はお菓子を丁度人数分しか用意しなかったことで、
録音が進んだ午後、エネルギーの切れたピアニスト曰く、
”江崎さん、お願いがあるんですが…”
“は、何でしょう?”
”江崎さんの分のお菓子、もらっちゃっていいですか?”
自分の分は午前中に食べちゃって、でもどうしても一口、甘いものが…あの
おいしい和菓子が、もう一つ食べたくなっちゃったのです、私。
”どうぞどうぞ”
ダメですなんて言えませんよね、「作曲者のお願い」ですもの。
お蔭様で私は無事、お菓子をエネルギーに弾き終えることが出来ました。
ありがとうございました、江崎さん!。
* * *
ホールは、東武東上線「鶴瀬駅」からタクシー8分、バス10分。
道路が近いせいで、救急車が通ったりトラックが通ったりで、録音を止めて
待つことはあったけれど、天気は晴れ、気温は22度、エアコンの音を気に
する必要も無く、交通機関のトラブルも、何より心配だった地震もなくて、
全てが気持良く進んだ。恵まれた一日だった。
頬をつねりたくなるというのは、こんな時に言うのかなと、弾きながら思った。
私は五線紙に音符を書き、ホールを借りて、録音のための様々な手配をした。
それは、私でなくても出来ることだ。けれど、今の「この幸せ」は私の人生が
作り出した、他の誰にも作れない、世界に一つしかない宝物だ。
手の中の宝石を眺めるように、しみじみと嬉しかった。
今回の録音は、来年発売するCDの中の、1番目と3番目に位置する作品。
2番目のピアノソロ「日記のような小曲集」は、同じ場所で11月に録音する。
2014.4.19
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北海道 |
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北海道で、私の曲が演奏されるコンサートが二つ開かれる。
村雲雅志さんのリコーダーと木下太陽さんのピアノの、
「ハーメルン〜失われた笛の音を求めて〜」(5月25日)
会場「Urari」は、釧路出身の鬼才、毛綱毅曠氏の設計による。
新妻美紀さんのチェンバロと田崎菜津子さんのリコーダーの、
北大総合博物館「ポプラチェンバロで奏でる初夏のコンサート」(6月1日)
使用楽器は、2004年の台風で倒れたポプラを惜しんだ人たちの協力によって
作られたポプラのチェンバロ。
* * *
20代を三浦綾子の小説「氷点」と共に過ごした私にとって、北海道は、
すっとイメージできる土地ではあるけれど、現実には行ったことが無い。
それなのに、このような流れになった。
切っかけは田崎菜津子さん。
古楽のお仲間の集まりに出席するために、お住まいのある北海道から東京へ
いらして、会場のギタルラ社の楽譜コーナーで私の楽譜集「はるのむこうへ」
に目を留められた。CDや他の楽譜も手に入れられて、以来北海道で私の曲を
演奏されるようになった中の「ガボットとメヌエット」に、村雲雅志さんが
耳を留められた。
お二人ともメールを下さったので、伝わってくるそれぞれの個性に合わせて、
田崎さんには「野の花による小曲集」を、村雲さんには「ハーメルン」を、
それぞれ“お見立て”してお勧めした。
村雲さんがチラシと共に送って下さった「ご案内」には、こう書かれている。
・まず皆様にご紹介したいのは、
「ハーメルンの笛吹き」の話をモチーフに 時代を越えて
人間の悲しみを問いかける堀江はるよさんの組曲『ハーメルン』。
この曲との出会いが、私を自主コンサートに駆り立てた。
村雲さんは長く演奏活動を続けてこられたが、自主コンサートは16年ぶり
とのこと。このように言って頂いて嬉しく、また光栄に思う。
* * *
私は余り旅行をしないまま来てしまった。
それを残念に思う気持もあったけれど、私の曲はタンポポの綿毛のように
北海道へ飛んで行った。北海道には他にもまだ色々と楽しみな事がある。
私が精一杯に生きていることによって、まだまだ咲く花がありそう。
けれど考えてみると、私が萎えてしまったら、咲く花も咲かなくなるわけで、
目下の課題は11月の「日記のような小曲集」の録音。我が作ながら難しく、
実は少しメゲていたのだけれど、そんな気弱なことは言っていられないなぁ。
朝の4時からパソコンに向かっていた。只今6時。ここまで書いて元気が出た。
今日もしっかりご飯を食べて、根気よくピアノに向かおう。
タンポポ、たくさん咲きますように!
2014.5.14
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CDと作曲 |
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今年もドクダミの季節になった。
茎の長いのを選んで抜いて、庭の水道で洗って束ねて、30束ほどを軒下の
竿に吊るしたところで、大雨の予報が出たので竿ごと家の中に取り込んだ。
梅雨に入って、ドクダミの束は今、鴨居に渡した竿にぶら下がっている。
少しずつ乾いて、今朝さわったらカサッと音がした。
* * *
「野の花による小曲集」を書き始めたのは、一昨年の春だった。
次は何を書こうか…イメージを求めて旅に出るなんてことも出来ないし…と、
ぼうっと庭を見ていたら、ニワゼキショウがツンと小さな花を咲かせている。
モデル発見。スケッチするように音にした。
庭の隅のヒメジョオン、道ばたのホタルブクロ、雨に濡れたドクダミ、セリバ
ヒエンソウ、スズメノテッポウ…と書いたところで夏になったので筆を止めた。
私は春の野草をスケッチしたいらしい。続きは次の春を待って書こうと思った。
ムラサキケマン以下5曲を書いて曲集が完成したのは、昨年の4月。
* * *
ここ数年間、私はかなり辛い状況にあった。
辛さが表現を求めて曲になる。曲が出来れば人に聞いてもらいたくなる。
けれど、そのための道が、その時は閉ざされているように思えて、もうCDを
作るのは諦めようと、自分に決心を強いていた。
何でもしてみるものだ。諦めようと本気で決心をしてみて、とても諦められ
ないのに気がついた。書いたら、聞いてもらいたい。演奏をパッキングして、
持ち運びできる形にして、私の音楽を一人でも多くの人に届けたい。CDを
作りたいと思うのは私にとって、作曲している限り、当たり前のことだ。
それが分かって、改めて道を探した。
昨年の暮れ、CD「鶴によせて」の制作を決めた。
今年4月と11月の録音を経て、来年が発売の年になる。
決断を支えて下さった方々に、深く感謝したい。
* * *
録音が済むまで作曲は休むつもりだったけれど、思いのほかの成り行きで今、
スクエアピアノという古楽器のための曲を書いている。タイトルは「旅人」。
この曲は完成と同時に、素敵なピアニストさんが、遠い町へ運んでくれる。
庭はもうすぐミントの季節。猛々しいほど大きくなった葉が、ふっと小さく
なって花が咲き初めたら、また抜いて、洗って干して…と、一仕事。
再来年は、CDに収録した「野の花による小曲集」の楽譜を出版したい。
2014.6.20
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