「堀江はるよのエッセイ」

〜日常の哲学・思ったこと考えた事〜


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二十四の巻

三善晃先生お別れの会
 


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三善晃先生
お別れの会
    お別れの会 そして想い出


昨年10月4日に亡くなられた三善晃先生のお別れの会が、サントリーホールで
1月30日14時からあって、出席させていただいた。

サントリーホールのサイトには「参加無料、どなたでもご入場いただけます」
とあり、開演という言葉から、コンサートの形と察せられた。

      *     *     *     

開場時間の13時には、入口前のカラヤン広場に長い列が出来ていた。
入口でいただいた式次第の、白地にラベンダー色を置いた表紙には
「三善晃先生お別れの会 〜ピアノ、ヴァイオリンと混声合唱による追悼〜」
裏表紙には、丘山万里子氏によるプロフィル。

席は自由。指定席の無いコンサートのよう。
舞台正面の前の3列ほどが、ご遺族の席になっていたのに、
会が始まってから気がついた。

舞台には、白のカーネーションにブルーローズが美しくアレンジされた
ふんわりと高い壇の上に、楽譜を開いて頬笑んでおられる先生のお写真が
あるのみ。供花のようなものは見えない。そういえば、ロビーにも供花は
無かったし、受付のようなものも無かった。
式次第に挟まれたカードに「ご出席の方はご記入ください」と名前と住所、
電話番号を書く欄があり、これが記帳の代わりになるのだろう。
東京コンサーツのサイトの「ご案内」には、「故人の遺志により ご供花
ご香典の儀は固くご辞退させていただきます」とあった。

定刻になって、携帯についての注意と、献奏に対しては拍手をしないように
との指示に続いて「皇后様のご入場に際しても、起立や拍手はなさらないで
下さい」とアナウンスがあり、場内の空気が一瞬、微かに揺れる。
皇后様は上手のバルコニー席に、ひっそりと座られた。


舞台下手の席に机とマイク。司会者が着席して会が始まる。

司会者によるご病気の経過の報告、一同黙祷の後、
弟子を代表して、池辺晋一郎氏と沼尻竜典氏によるお別れの言葉。

池辺晋一郎氏は、ご本人の希望により録音で。沼尻竜典氏は、舞台の下から
マイクで、お写真に向かって述べられた。
どちらも先生の頬笑ましいエピソードを交えて…沼尻氏は声色まで入れて、
作曲家として一人の人として真摯に生きた師への、深い敬愛の念をこめた
お別れの言葉だった。


続いて奥様が、最前列から客席に向かって挨拶に立たれた。
亡くなるまでのこと、先生のご希望からお見舞いを遠慮したことへのお詫び、
先生ご本人とご家族への多くの人からの心遣い、また心で祈っていた人への
御礼を、何度も頭を下げながら丁寧に述べられてから、更に「これから演奏が
ありますが」と続けられ、献奏に対しては本来は拍手をしないものだけれど、
通常のコンサートと同じように聞いて頂きたいので、演奏の後にはぜひ拍手を
して下さい…ということを、しっかりとしたお声で、意が伝わるよう、二度程
繰り返して言われた。


演奏は、岡田博美氏のピアノソロ「アンヴェール」、
堀米ゆず子氏のヴァイオリンソロ「鏡〜ヴァイオリンのための」、
指揮:田中信昭、ピアノ:中嶋香、東京混声合唱団による「五つの童画」より
「風見鶏」「砂時計」「どんぐりのコマ」。

それぞれに、アンコールの拍手と答礼があって、最後の演奏が終わると、
司会者が「それではこれで終わります。本日はありがとうございました」
と、この上なくシンプルな閉会の辞を述べて「お別れの会」は終わった。

すべて、先生から生前にいただいたご指示の通りに行われたという。

      *     *     *     

実は私にとって、「平服で」というのが出席に際してのハードルだった。
礼服は持っているけれど、礼服でなくて、こういう場に相応しい服というのを
私は持っていない。先生が生きていらしたら、「あなたの持っている服で来て
くれたら良いのですよ」と言われるだろう…と思いながらも、悩んだ。

だが気にすることはなかった。「平服」という微妙なニュアンスに合わせての
私が想像したような装いは少なくて、女性の出席者の多くは黒のワンピース等、
音大の学生が学内演奏会で演奏する時のような服装で、それがこの簡素な会に
良く似合っていた。


昔、兵庫県立博物館での堤剛氏の演奏会で三善先生の作品が演奏されたとき、
開場を待つ長い列の中に、一般客に混じって同じように入場を待っておられる
先生を見つけて驚いたことがある。お声をおかけになれば、主催者がお迎えに
出ただろう。弟子に囲まれて招待席に案内されて良いお立場だ。

ビックリして、「先生!」と声をおかけすると、当時ご愛用だったチャコール
グレーのルパシカ風の服の襟に首を引っこめるようにして微かに頬笑まれて、
このままにしておいて下さいの合図に、小さく手を振られた。


先生は一生を通して、真摯に生きられた。
私は先生から、作曲家であるとはどういうことかを教えていただいた。
非力を尽くして私も、私の道を真摯に歩みたい。


                          2014.2.12


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