1995年〜1999年 → 2011年〜2015年 |
小曲集
はるのむこうへ |
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リコーダー
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ギター
様々な旋律楽器
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ピアノ
リコーダー
&
チェンバロ
約17分
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一旦作曲すると、曲は私の手を離れるのだけれど、
この「小曲集はるのむこうへ」とは、長い付き合いになった。
1995年にギター伴奏版とピアノ伴奏版を作曲、2010年に新たに
チェンバロ伴奏版を作曲して、三つのヴァージョンができた。
ピアノ伴奏版とギター伴奏版は1998年に、チェンバロ伴奏版は2011年の今年
出版した。曲集のタイトルにもした1曲目の「はるのむこうへ」を作曲したときの
いきさつは、およろしければこちらでご覧下さい。
全7曲。一番終わりの「ねむたくなるワルツ」は、1994年の作曲だが、
2曲目の「すみれ」から6曲目の「たんぽぽとねずみ」までは震災後の1年間に、
被災地の西宮の自宅と宝塚の仕事場を往復しながら作曲した。混乱した状況の中で
苦労や心配は数々あったけれど、この曲集を作ろうとすることで私は元気になった。
1998年の出版の時、私はこんな言葉を添えている。
この曲を書いた時期は、阪神大震災と重なっています。
作曲をしていて、不思議に思うことはいろいろありますが、
暗い気持のときに明るい曲を書いてしまうのも、その一つです。
人が気晴らしに遊びにゆくように、心も遊びにゆくのでしょうか。
チェンバロ伴奏版は、2009年から2010年にかけて作曲した。
そのことを、このサイトの更新案内「カタツムリ通信」に書いたら、1998年の版を
お持ちの方から“ぜひ出版を”とメールを頂いた。13年も前に出版した曲集を今も
大切にしていて下さる方が、お一人ならずおられるのを知って、とても嬉しかった。
いろいろあって少しばかりおとなしい気持になっていた私は、元気を取り戻し、CDと
楽譜によるチェンバロ伴奏版の出版を考えはじめ、2011年の今年2月に楽譜を出版。
CDは新しい曲を加えて「ひらがなの手紙5」として、6月に録音を済ませた。
作曲から16年、「小曲集はるのむこうへ」は私に、様々な幸せを運んでくれた。
親孝行な曲…というのがあるとしたら、この曲集がそれかもしれない。
2011・8月
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ソナチネ
(リコーダー) |
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リコーダーソロ
7分40秒 |
“貴方ね、ちょっとそこを走ってパッと止まって、クルッと振り向いて、ピョンと飛んで
ニコッと笑って手を振って下さいな”と言われたら、恥ずかしいとかは別にして、誰でも
一応は出来るだろう。どれも見たことも無い異様な動作…というわけではないから。
でもそれが、高い塀の上で…となると、話は全く違ってくる。
この曲は、例えて言えばそんな曲で、聞いて楽しく愉快だけれど、演奏は易しくない。
それに実はその上に、更に宙返りも逆立ちも書き込まれていて、テクニック的には非常に
と言って良いほど難しい。
難しい曲をいかにも難しそうに演奏すれば、聞く人は感心してくれる。けれどこの曲には
“怖そうな顔しちゃダメ、宙返りも逆立ちも、ケラケラ笑いながらやってほしいのよ”と
いう作曲者からの註文がついていて、うまく演奏すればするほど、“わぁ面白い!”と
喜んではもらえても、難しいことをクリアした蔭の苦労は報われない。
そのせいか、これまで演奏者が現れなかった。
だから今回、CD「ひらがなの手紙5」の収録曲を決めるにあたって、
演奏者の江崎浩司さんが、この曲を選ばれたのは嬉しかった。
作曲したのは1997年だから、音になるまでに14年待ったことになる。
2011年6月に録音。世にも楽しい演奏で、録音の小川さんの横で私は
ニコニコ…というか、作曲者としてホクホクしてしまった。
* * *
遊びをせんとや生まれけむ 戯れせんとや生まれけん
遊ぶ子どもの声聞けば わが身さえこそ揺るがるれ
音楽について考えるとき、この梁塵秘抄の中の今様が、いつも心に浮かぶ。
生きることは楽でないからこそ、人は遊ぶ。その遊びの一つが音楽。
そして時に、遊びの面白さは危険度に正比例する。
この曲を一緒に遊んでくださった江崎さんに、心から感謝したい。
2011・9月
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はこべの庭
The Wanderer
(1999−2014)
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組曲 15分
ギター・ソロ
スクウェアピアノ・ソロ |
仮に、目の前の景色から、あらゆる文明の産物を取り払ってしまうと、
広がるのはハコベに象徴される自然…大きな庭。人は、その「庭」を歩む旅人。
私はこの曲を、組曲「こどものとき」「友だち〜変奏曲の形をかりて」と合わせて、
ギターソロのための三部作、ひと続きのドラマとして作曲した。
幼い日の心象風景を描いた「こどものとき」
他者との出会いを経て自分で立つことを知る「友だち」
そしてこの曲に、私は自分らしく生きることの孤独を描いた。
表題の「はこべ」は、私の好きな野の花だ。
ハートの形をした葉に、芥子粒ほどの白い花弁が、小指の先ほどの花冠を作る。
北海道から沖縄まで日本全国に見られるそうで、東京から関西へ移り住んだ私の
傍らにも、お供して来たように、いつも居てくれた。
* * *
初演は好評だったものの幾つかの不運が重なって、この曲はその後、私の手元で
眠ったままになってしまった。残念でならなかったが、どうにもならない。
不遇な「この子」が、私は不憫でならなかった。
作曲から3年後、私は思いがけず東京に戻る。
そして、フォルテピアニストの丹野めぐみさんに出会う。
丹野さんからスクウェアピアノのための曲が欲しいと言われたとき、真っ先に
この曲のことが思い浮かんだ。スクウェアピアノの古雅な音色は、私にとって
素晴らしい絵の具になるだろう。6本の弦を片手で弾く制約から自由になって、
この曲を5オクターブ半の鍵盤と10本の指のために描きなおそう。
* * *
新たな形での初演にあたって、題名を「旅人-The Wanderer」に変えた。
12の楽章の内容を紹介しよう。
1 [プロローグ]
荒涼とした風景。
前作「友だち〜変奏曲の形をかりて」のテーマのイメージ変奏。
このことは二つの作品の繋がりを暗示する。
2 [悲歌]
冬枯れの野に立つ旅人。
疲れて、心は重い。
3 [陽だまり]
幼い日に想いを馳せる。
石けりをして遊んだ陽だまりのぬくもり。
4 [そよ風」
光を含んで吹くそよ風。…アルペジオで
5 [アリの行列]
黒々といかついアリの隊列に、
旅人は軍靴の音を聞く。
6 [クモの糸]
朝日にゆれる光の糸。…ギターはハーモニクスで
7 [水辺の草]
流れてしまうことが出来るなら、どんなにか楽だろう。
水に弄られながらも流されることのできない水辺の草に
旅人は我が身を重ね合わせる。
8 [追憶]
懐かしい人たちの顔が水面に浮かぶ。
そして旅人を呼ぶ。“おいで、一緒に流れてゆこう”
9 [波]
いっそのこと身を投げてしまおううか?
波間見つめる旅人の心に起こる葛藤。
10 [つばめ]
目を上げる旅人。
つばめの声が希望を知らせる。
11 [ゆっくりな行進曲]
呼びかける角笛に励まされて、旅人は歩み始める。
ゆっくりと、そして次第に力強く、やがて自信に満ちて。
12 [友へ]
プロローグのテーマの再現。
微妙な変化は、旅人の心の変化を表す。
それぞれの人生を旅する友へ、メッセージをこめて。
* * *
2014年のアムステルダムの”Geelvinck Fortepiano Festival”での初演は好評で、
2015年には、丹野さんの友人のミヒャエル・ツァルカさんの希望で、お二人の
ために「こどものとき」をデュオに作曲。同フェスティバルで初演された。
今は来年のために「友だち」を、同じくデュオに書いている。
二人が並んで一つの楽器を演奏する「こどものとき」と「友だち」の後で、
舞台に一人残った演奏者が「旅人-The Wanderer」を弾く…という演出を、
いつか実現したい。
2015・11月
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