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しばし遠出しておりましたが、舞い戻って今回は食べ物のお話。
お馴染みの濃口淡口、蕎麦屋うどん屋のお話は置いといて、ちょっと一言。
@ 味くらべ
“東京人は味オンチや…”
例の関西人の友人が呟く。
久々に上京して、東京人お勧めの鰻屋に入ったら、そもそも突き出しから口に合わない。
ふっくらと大きな鰻は良いけれど、たれの味の濃さに辟易したらしい。
“そんなことないわ!”
東京人の奥さんが切り返す。
“東京にだって、おいしいもんあるわよ。
関西にだって、お料理下手な人いるわよ
○○さんとこのおソーメンのおダシ、水みたいだったわ…”
私が思うに、鰻の蒲焼は、セブンイレブンのが美味しい。
東京は元々武士と職人の町だ。体を使う人は塩分を必要とするから濃い味を好む。
関西は肉体労働をすることの少ない公家や商人が力を持っていたので、薄味が定着したの
だろう。最近は、ずいぶんと相互乗り入れが進んだが、それでも好みは相当に違う。
セブンイレブンはその辺りを研究して、万人向きのポイントを見つけ出したらしい。
水みたいなおソーメンのお出し(つゆ)には、関西のご家庭で何度かお目にかかった。
薄味のお料理には腕の差が顕著に表れる。お料理の下手な人の作った関西料理は、これは
もうとてもじゃないけれど、美味しいとは言いかねる。そういうのに出会った東京人は、
さすが関西人、調味料までケチッて…なんて非らぬことを考えるが、それは違う。
関西も広い。関東も広い。ここでは東京を中心とする首都圏と、私が数年前までB級
&C級グルメをして歩いていた「大阪を中心に電車で廻れる範囲」を比べさせて頂くが、
東京にも大阪にもアタリの店もあればハズレの店もある。お料理の上手な人もいれば、
下手な人もいる。
ただ、そのパーセンテージはというと、東京人としては誠に無念だが「おいしいもん」に
当る確率は、関西の方が高いかなぁ…。もう一歩進めて、「損しちゃった、お金を返して
ほしいと思わない確率」となると、これはもう断然、関西のほうが高い。
たとえば、茹で麺をお湯に通して大なべの汁をかけて出すのを、立ったまま食べるような
グルメの範疇外の店でも、関西…大阪を中心に電車で廻れる範囲では、それなりに納得の
ゆくものを食べさせる…食べさせなければ潰れてしまう。関西のお客はシビアだ。
ご予算の少ないときには、関西の味の文化の有難みが、ひとしお身に沁みる。
でもねぇ…東京にも江戸風料理というのがあるのです。
ヒとシが逆になることはないけれど、「真っ直ぐ」を「まっつぐ」、「三つずつ」を
「みっつっつ」と発音した私の祖母は、落語の世界とは少し違う、旗本の家などがあった
あたりの東京育ち。私は小学校三年まで、祖母の作る江戸風料理を食べて育ったのだが、
あれは美味しかったなぁ。
お吸い物は主に塩で味付けして、香りの良い濃口醤油を少しだけ入れる。
小芋は一口で食べられるようなのを、下茹でしないでそのまま、ぬめりを生かして煮る。
干瓢と三つ葉、卵焼、甘辛く炒りあげた鰹節の入った海苔巻き。
鰹だしで煮た茄子。白魚の入った茶碗蒸し。
ああいうものを食べさせる店は、どこに行ったらあるのかしら…と思っていた矢先、
我が家から遠からぬところに、すっきりした感じの小料理屋を発見した。
例の友人を連れて行ったらお口に合って、いたくご満悦。
カウンター越しに板前さんに声をかけて曰ク。
“どこで修行されたんです〜…関西でしょ?”
板前さん、キッと目を向けて答えて曰ク。
“東京です、ずっとこちらで修行いたしました。”
いやぁ、東京人としては嬉しかったですねぇ。東京人は決して味オンチではない!
ただ、「おいしいもの」に出会う確率の話になると…
近所には、関西は新開地で修行した職人さんの、江戸前寿司の店もあり、
これはご飯の味が、やっぱり関西風かなぁ…どこかまろやかです。
中学の修学旅行で、初めて関西に行きました。
関西に引っ越した幼友だちの母上「チーちゃんのおばちゃん」が面会に来てくれて、
夜の京都で「きつねうどん」をご馳走になりました。その頃はまだ東京で見なかった
杯型のおどんぶりと、ほとんど味のないお汁が珍しくて、チーちゃんのおばちゃんの
ほっそりした姿と一緒に、ビデオのように心の中に残っています。
旅館の食事の、稚鮎の煮たのと湯葉は美味しかった…
男の子達は枕投げをして、修学旅行用の急ごしらえの、フスマみたいな間仕切りを
ぶち抜いてしまって、叱られてました。
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さて、月が替わって…
今回は、私が食べて美味しかった関西料理のお話をいたしましょう。
なんて申しましても、吉兆の懐石料理や美々卯のうどんすきを、お座敷で頂くような
暮らしはしておりません。ご紹介するのは、「あなたも作れる庶民の味!」です。
ちなみに「うどんすき」は「うどん好き」ではありません。
薄味のおつゆを使った、うどん入り寄せ鍋…とでも申しましょうか。関西の高級料理店
「美々卯」のご主人、薩摩平太郎さんが考案して、美々卯の登録商標にしておいたのに、
あんまりポピュラーになっちゃったので、一般名詞扱いになってしまったそう。
おつゆもたっぷり取って、酢だちなんかキュッと搾って食べると、美味しいです。
A きりぼしのたいたん
今ではそんなことも無かろうけれど、私が関西で暮らすようになった1960年代、
東京人は、関西に行って初めて「淡口醤油」なるものにお目にかかった。
アワクチって、なぁに?…なんて聞いたりして。
うすくち=淡口
こくち=コクチ・告知…あれ?…漢字が正しく変換できない!
…こうくち?=コウクチ・甲口…あれれ?…これもダメ?
…こいくち?=濃口 えっ、そんなぁ?…ちゃう(違う)んチャウ??
変だなぁ、私の知っている範囲では「コイクチ」なんて言う人、居なかったけどなぁ。
「こくち」「うすくち」、それと、お寿司やお刺身につける「たまり」が使われていた。
関西のお寿司屋さんに行くと、カウンターに直径十センチくらいの蓋物が置いてある。
中にはドロッとした焦げ茶の液体が入っていて、これが「たまり醤油」。ニスでも塗る
ような木製の柄の刷毛が突っ込まれていて、各自、ペタペタと塗るのだという。
お寿司とは、職人さんがキュッと握って飯台に置いたのを、手でつまんで小皿のお醤油に
チョイとつけて食べるものと思っていた江戸っ子には、なんともカルチャーショック。
使いまわしの刷毛が不潔に思えて耐えられず、“なんてトコに来ちゃったんだろう!”
と思った。40年も前の話だ。今はもう見られないのではないかしら。
いつも使っていた「おしょうゆ」に「濃口醤油」という別名があるのは、関西に行って
初めて知った。「こくち」と訛って憶えてしまったのは、そのせいだ。今、Wikipedeiaを
見たら「こいくち…関東地方で発達した最も一般的な醤油」と書いてあった。
淡口醤油は、色は薄いけれど味が薄いわけではない。使ってみると分かるが、濃口に
比べて段違いに塩気が強いから、関西でも付け醤油には使わない。分量をグッと控えて、
煮物に使う。酢の物に少しだけ垂らすと、味が締まって美味しい。
さて、今回ご紹介するのは「きりぼしのたいたん」。
漢字を交えて書くと「切干の炊いたん」。関西では煮ることを「炊く」と言う。
「炊いたん=炊いたの=煮たの」で、切り干し大根の煮付けのこと。珍しくも何ともない
全国ネットのお惣菜だけれど、これが関西では感動的に変身する。作り方を書こう。
申し訳ありませんが、分量は大雑把。作り方も経験者向きです。
微妙なバランスは、とてもじゃないけど素人の私では数字に出来ません。
〜材料〜
きりぼし=切干大根 一袋(50g)
おあげさん=薄揚げ 1枚
だしじゃこ=煮干 大きいもの4〜5匹
味醂と酒 それぞれ4分の1カップ
淡口醤油 適宜 ・砂糖 少々 ・塩 ポッチリ
★ 淡口醤油はヒガシマルの特選、金色のキャップのを。
ワンランク下の黄色やオレンジのキャップのとは、出来上がりの味が
信じられないほど違う。値段の差を反映して…なんてどころではない。
どうしてだろう?
〜作り方〜
@だしじゃこは頭とワタを取って、3〜4カップの水に漬けておく。
Aきりぼしは水に漬けて、もどしてから軽く絞って、ザッと包丁を入れておく。
Bおあげさんは、お湯で洗って余分の油を落として、細く切る。
C少し深い鍋に、みりんと酒を半々に、合わせてカップ半分くらい入れて煮切る。
煮切る=火をつけて燃すこと。未経験の方は危ないので煮立てるだけにして下さい。
D別の鍋を熱してサラダ油を少々入れ、きりぼしをよく炒める。
E薄揚げを加え、みりんと酒の煮切ったものと、だしじゃこを、漬けておいた水ごと
加える。水が足りなければ足して、コトコトと暫く炊く。
Fきりぼしが柔らかくなってきたら、淡口醤油を少ずつ、あまり色が付かないくらい
…東京人は特に気をつけて慎重に…味をみながら入れる。
淡口醤油は、舐めてみると分かるが、むせるくらい塩辛い。
入れた時はそれ程と思わなかった塩気が、後で“エッ”と思うほど効いてくるので、
この時点では、物足りないくらいが良い。
G関西風のうどんや、「ヒガシマルのうどんスープ」など思い浮かべながら味をみて、
“いくらなんでも甘みが足りない”と思ったら、砂糖を…大さじでなく小さじで…
控えめに入れる。“甘いんだか辛いんだか、よく分からないけど、なんだか美味しい。
旨みが感じられる気がする”というのが良い。
H砂糖を入れると味のバランスが微妙に崩れることがあるので、そのときは淡口醤油を
足すか、塩を指の先でつまんで、ポッチリだけ入れる。これからまだ煮詰めることを
考えに入れて、味はくれぐれも控えめに。
Iいささか頼りない感じに味が決まったら、さらにコトコトと炊く。
「煮る」と「炊く」の違いは、もしかして時間かも。本でも読みながら気長に。
キッカリした味が好みなら、最後に強火で炒り上げるが、ほんわりした味が好みなら、
煮汁を充分残して早めに火を止め、蓋をして3時間くらいおいて、味が滲むのを待つ。
“切干大根の煮付けに3時間?”なんてビックリしちゃいけません。
だしじゃこの代わりに鰹節を使うときは惜しまずタップリ。紙パックを使うと便利です。
鶏の手羽先や、手羽もとなど使っても、こってりして美味しい。
…というようなことなのですが、素人の料理解説…お分かりになります?
東京風の甘辛い「切干大根の煮付け」と違って、あっさりしているので、いくらでも
食べられます。カロリーは低いし、繊維もタップリ、ダイエットに良いかも…。
さて8月。
暑いさなかに計画性の無さを露呈して、火鉢を囲むお話。
ガマン大会みたいになりますが、ご容赦頂いて、
東京風お好み焼きのお話をいたします。
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B 我が家のどんどん焼き
松が明けたところで広場に大きな焚き火をして、〆縄やお飾り、おせちに使った柳箸や
箸紙、書初めの反古を燃やす…のは「とんど焼き=Tondo-yaki」。
こちらは「どんどん焼き=Don-don-yaki」、東京風のお好み焼きだ。
お好み焼きの東京版みたいに言われるものに、「もんじゃ焼き」があるけれど、
あれは東京の下町から、埼玉、群馬にかけてのもので、「お好み焼き」とは別物。
杉並区に育った私は、映画でしか見たことがなかった。
屋台で太鼓を鳴らしながら売っていたから「どんどん焼き」だそう。
家でも、火鉢にフライパンを乗せて、我々子どもは、オヤツに自分で焼いた。
薄く薄く焼いて、そこへ具を載せて、クルッと巻いてソースを塗って食べるのと、
具を中に混ぜ込んで、薄く焼いてソースを塗る…巻かないのと、二種類ある。
我が家のは、巻かない方だった。
具は桜えび…3センチから4センチの平たい干し海老…と長葱。どちらも産地が近い。
桜えびは静岡産。今は高価になってしまったが、昔は手ごろな値段で買えた。
メリケン粉…と言いそうになるのは、気持が50年前にタイムトリップしているらしい。
小麦粉を二人分でカップ2杯。水を同量。卵1個。卵は入れないほうが好き…という人も
いる。やわらかすぎかなぁ…というくらいで、丁度良い。
長葱は、1〜2本を小口切り。桜えびは経済状態の許す分量。時々お買い得品があるが、
間違えで「アミえび」を買ってしまわないように御用心。あれは美味しくない。
溶いた小麦粉に長葱と桜えびを混ぜ込んで、熱した鉄板かフライパンに、薄く油をひいた
ところへ流して、広げて、薄く焼く。仕上げにソースを塗って出来上がり。
ソースはブルドックの「とんかつソース」または「中濃ソース」を。
関西はイカリソース、東京はブルドックソースだが、イカリソースの現在の主要株主は、
ブルドックソース。ブルドックソースの主要株主は、イカリソースになっている。
この間の事情は、Wikipediaに書かれていて興味深い。
ブルドックソースがイカリソースの支援を表明した時、関西の人たちは、長年親しんだ
ソースの味を東京風に変えられてしまうのではないかと心配したそう。
でもブルドックは「関西の味」を尊重して、製法を変えることは求めなかった…と、
先日のスティールパートナーズの敵対的買収についての報道の中、どこだったかの
テレビだったか新聞だったかで知った。
そうでしょうとも!
フレー、フレー、愛しのブルドックソース!!
幼馴染に、乾杯!!!
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