〜堀江はるよの音楽・作曲その周辺〜

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1994年 続

♪ 小曲集「ポケットの中から」
そのニ




エレキ


ハバネラ

オルゴール

舟歌



堀江はるよのコンサート

文字放送版



  1994年 続
エレキ

   

G1 “エレキっていうと?…うーん…子供!”
私  “はあ?”
G1 “こどもがギターの弦を持って、ギュンギュンって引っ張ってる感じ”
私  “???”


G2 “エレキ?…ちょっと古い感じがしますねぇ”
私  “古い?”
G2 “ええ、昔風というか…レトロな…”
私  “?…平賀源内とか?”
G2 “いえ、そこまで古くは…”


エレキという「言葉」から何をイメージするかを、二人のギタリストさんに
聞いてみたら、こういうことになりました。何んとも取りとめがありません。
同じ言葉が「題名」として使われると、音楽と言葉が助け合って、
もう少しイメージが狭まってきます。

題名に、あんまりハッキリとイメージの伝わる言葉を使うと、
それだけで分かってしまって、音楽への興味が減るのではないか。
そんな気がして、私は題名には「ちょっと足りない言葉」を選びます。


                          (小曲集「ポケットの中から」解説より…少し書き換えました)




  ★ 更に付け加えれば、題名を選ぶとき私は次ぎのようなことを考える。

    @ワープロの漢字変換で一度に出るか。
    Aネットで検索して、よそ様の作品とかぶらないか。

    けれど、この二つ条件を付けただけで、大抵の言葉が落第となる。
    前に、夜の海に泳ぐ魚のイメージで曲を書いて、さて題名を…と思ったが、
    漁業組合からネット小説まで数百のタイトルの海でアップアップするばかりで、
    どうしても決まらなかった。ギターの小曲で、いまだに題名がついていない。

    題名が決まったら、公開するタイミングに注意する。
    だいぶ昔のことだが、“今年はこういう曲を書きます”と年賀状で予告したら、
    大勢の人に送った中の一人に同業者がいて、先に使われてしまった。
    悪意あってのことではなく、ふっと頭に入ってしまったらしい。

    生物の名前を使うときは、外国語に訳したときに妙な意味にならないか、
    数ヶ国語の範囲だが、一応調べる。それでも見落しはあるだろう。
    無粋な医学用語にも読めるのを、ネイティブの方が見落して、
    日本の友人が見つけて教えてくれたこともある。

    「風」という題で登録しようとしたら、著作権協会の人に“カンベンして
    下さい…”と言われた。どうしようもないほど沢山あるのだそう。
    日本人は風が好きらしい。私も。



ハバネラ

   

音楽はたいてい山型のカーブを描く…という先入観があると、この曲は弾けません。

もしあなたが、この曲の初めの何小節かを見て、これは富士山のように穏やかな裾野を
持った曲なんだなぁ…とノンビリと坂道を登るように弾いて行くと、18小節目で、
ふいに山は姿を消して、あなたは何をしたら良いか判らなくなってしまうでしょう。

困ってしまった方のために、ちょっと解説いたしましょう。

まず、はじめの4小節で息を詰めるようにしてエネルギーを溜め、
5小節目でそれを一気に爆発させたら、もうあなたはハバネラの真っ只中、
熱く悩ましく身をくねらせて17小節まで踊りつづけて、あとは余韻のさめるまで、
吐息とともに消えてゆくギターの音に耳を傾けて下さい…いかがですか?


でも本当は、こんな解説はいらないのです。
私がいま文字で書いたことは、実はもう譜面に書いてあるのですから。

3,4小節の上声の5小節目に向かって矢印するような動き。5小節目の頭の和音についたレの前打音と「フォルティッシモ」の指定。続いて低く高くアルペジオを交えて目一杯ハバネラ的に歌うメロディは、まだ歌っていたいのに歌っていたいのに、繰り返すリズムの上で次第に動きを止めてゆく…。

柔らかな心で丁寧に譜面を読むとき、作曲者の仕組んだことが見えてきます。


この曲の半分は「しっぽ」です。
竜頭蛇尾って言いますね。竜のように始まって、蛇のように終わる。
それって悪口なのですが、ほんとにそれじゃダメなのかしら?
竜頭蛇尾のバランスで曲を書けないものかしら?

やってみなくちゃ分からないわ、やってみようじゃないの!
というのが、この曲を書いた切っかけです。


              (小曲集「ポケットの中から」解説より…少し書き換えました)



  ★ 理論は車の轍のように作曲家の後から付いてくるもの…と私は考えています。


オルゴール


   楽譜を見ていただくと分かるのですが、この作品は全曲にわたって、ハーモニクス、
   つまり倍音を聴かせる奏法で書かれています。ハーモニクスの音はビブラートが無く
   真っ直ぐで、そういう特徴を目立たせで弾くと、オルゴールの音に似ています。


   

全てのハーモニクスが美しく弾ければ、まずは成功…というものでもありません。
オルゴールのお手本のように弾いたからといって、オルゴールらしいと思ってもらえる
わけではないのかもしれません。

人がオルゴールをイメージするとき、そこにはオルゴールと「オルゴールの想い出」を
足し算したものがあるのではないでしょうか。


                       (小曲集「ポケットの中から」解説より



  ★ 技術を見せることで終わってしまうなら、人が演奏する意味はありません。


舟歌

   

あなたは、ひとりでビートルズを歌ったことがありますか?
ビートルズの4人分を一度に、上に行ったり下に行ったりしながら、
ひとりで歌うのです、こんなふうに。

       
りろ
     ♪ とらら らりらり
ららら らららら
らりら



この曲には、旋律線が突然ちぎれたように途切れて、ある時は高く、ある時は低く、
全然違う場所へ飛んでいってしまうように見えるところがあります。そういうところは、
一人でビートルズを歌うように、一人で何人分も演奏しているつもりで弾いて下さい。

  流れを行く舟、
  漕ぐ人と乗せてもらう人、
  歌う人と聴く人、波の音、かいの音、 etc.etc.etc.

             (小曲集「ポケットの中から」解説より…少し書き換えました)


  ★ 演奏は「ごっこ」です。


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