関西と関東・橋渡し文化人類学


西

に生まれて西に住んで〜

東京阪神間 8頁目

よめはん

@呼び方いろいろ・前編
A呼び方いろいろ・後編
B嫁の年越し




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執筆者のCDと楽譜









 @ 
呼びいろいろ・前篇



  既婚男性にお伺いいたします。
  家の外で、親しい友人とオシャベリするときに、
  奥様のことを、なんと言って話されますか?

  家内、妻、女房、奥さん、よめサン、よめはん、ワイフ、etc


「よめはん」という言葉について書こうと思い立ちましたが、これが難物。
まずは上記のごときアンケートを試みましたが、お返事はあんまり集まりませんでした。
これって、けっこうプライベイトな情報なのかもしれません。
今回は、様々な呼び方について考えてみました。

今回は、こんな回答を頂きました。


   お久しぶり!
   僕? 元気にしてますヨ〜
   うん! 「家(うち)」のも元気にしています。
   相変わらず、「彼女」は△区民オケで頑張っていますヨ。
   そう、「家内」も○学オケ出身なんですよネ。
   それにしても、「アイツ」は、よく練習をしますネ〜。

   …ッてな感じですかネ。
   回答になっていないですかネ?



奥様への深い関心と、多面的な愛情が感じられます。
ちなみに回答者は東京人。関西人だとテレちゃって、こんなふうには言えません。


回答にあった呼び方を、アイウエオ順に並べてみましょう。



 「うちの」


 省略形。うちの奥さん、うちのかみさん、うちの女房、うちのよめはん etc.
 「うち=我が家」で、「の」は「我が家」への所属を意味する…はずですが、
 どうもナンと言いましょうか…この「の」には、どことなく「my」ような、
 個人的所有+愛着の気持が感じられませんか?「うちの=ボクの」でしょうか?



「奥さん」


 「おくさま」をやや粗略に言った形。

 広辞苑にそう書いてあります…ホント。
 ちなみに、奥様の項には、

  @諸家堂上方に武家から嫁した夫人、奥方、
  A人の妻の尊敬語

 とあります。それを簡略化した言い方が「奥さん」なんですね。


 “ウチのおくさんね”と嬉しそうに話す関西人がいる一方、
 “じぶんトコのを、奥さんだなんて…”と、反発を示す関西人もいます。
 自分の配偶者を指す言葉としては、東京人のほうが多く使ってるかも。
 公武合体に是努めた明治維新の名残かしらん?



 「家内

 “うちは家内じゃなくて‘Out Door Wife’です”って…

 ご夫婦で営業活動されてる方です。



 「かみさん」


 元になってる言葉は「おかみ」。漢字で書けば内儀または女将。

 「内儀」は
  @身分のある人の妻
  A転じて人の妻の敬称

 「おかみ」は
  @他人の妻
  A料理屋、待合などの女主人、女将

 内儀は奥向きを統括する女性、
 女将は仕事の場を統括する女性…でしょうか。
 敬意を表して「さん」を付けたけど、myだから「お」を取っちゃったんですかね。

 関西では余り言わないと思っていたのですが、ニューヨーク在住の関西人さんから
 頂いた回答には「かみさん…」とありました。「…」の意味するところや如何?



 「妻(ツマ)」


 “ツマって言わないの?”

 と例の関西人の友人に質問しましたら、
 一瞬、目を宙に泳がせ、顔を赤らめて曰ク。

 “ツマなんて…そんな…恥ずかしゅうて…”




 昔、「サイ」という言い方がありました。戦前の文学に出てきます。

 “すまんねぇ、サイが留守だもんで茶も出せんのだよ”とか。


 謙譲語としては「愚妻」なんてのがありました。

  この度、愚妻○子儀、御令室様のお茶会にお招きに預かりまして
  恐悦至極に存じ奉ります。生来の粗忽者にて、ご同席の皆様に御迷惑を
  おかけする仕儀に相成りましてはと誠に案ぜられますが、当人は既に
  舞い上がっております。よくよく申し聴かせ、伺わせますので、
  よろしくお引き回しの程、御願い奉ります。

 てなふうに、ごく普通に使われてました。
 “愚妻は風邪で…”なんて言ったりも。


 お若い方は信じられないでしょうけれど、「豚児」なんてのもありました。
 自分の子どもを指した謙譲語です。あれっ?…漢字変換したら一回で出ましたよ。
 これってまだ過去の言葉にはなってないんでしょうか!?!
 ブタコではありません。トンジと読みます。






 A 
呼びいろいろ・後篇


 「女房」

   ・女官の部屋。
   ・禁中、院中で部屋を賜って住む高位の官女。
   ・貴族の家に仕える女
   ・婦人。女。
   ・妻。内儀。

   以上、広辞苑より。


 お部屋様って、時代劇に出てきますね。
 江戸城の大奥で将軍に仕える女性たちの住まいは、
 庭に面した廊下の片側に、長屋みたいに並んでいました。
 中は二階建て。間取りはウナギの寝床式。
 和風のテラスハウスといったところ。

 これが「お部屋」。
 自分専用のお部屋を賜ることが出来るのは、次のような場合です。

   イ・身分の高い家の出の側室。
   ロ・職務に関して高い能力を持って仕えている女性。
   ハ・将軍の御子を身ごもった女性。

 この中のイとハが、お部屋様。
 ロは「お部屋様」とは言いません。職名や名前で呼ばれます。


 天皇のお住まいである禁中や、上皇や法皇のお住まいである院中では、
 この、ロに当たるのが「女房」。いうなれば元々は、ハイグレードな
 キャリア・ウーマンのことだったんですね。

 最近は、お部屋を賜ってない女房も、あまた居られるようで…




 「よめサン」

 愛知県出身の若い演奏家のお返事に、「よめサン」とあった。
 嫁という言葉は読んで字のごとく、「家に属する女」であるけれど、
 彼が「よめサン」と言うときの「サン」の発音の微妙なニュアンスから、
 この場合は、「ボクの配偶者」と解するのが正しい…ような気がする。

 「サン= my」なんですねぇ。
 日本の男性って、照れ屋というかナンというか…



 「よめはん」

 関西でも「よめサン」という言葉は使われる。
 でも、どちらかといえばこの場合は、いわゆる「嫁」を指すことが多い。

 最近の関西の男性は、「ボクの」は「よめはん」、「他所様の」は「よめサン」と
 使い分けているのではないかしら。
 彼らが、チラッと照れた顔をして「ウチのよめはん」と言うとき、
 「はん= my honey」みたいに聞こえることがある。



 それにしても、どうして照れなきゃならないの?
 ツマって、そんな恥ずかしいもんかしらん?
 いや、それはともかく、
 ここらで「よめはん」にまつわる想い出を一つ。



      *     *     *     



十数年前に私が「堀江はるよの作品によるコンサート」をしたとき、
準備を手伝ってくれたスタッフの中に、三十代くらいの男性がいた。

大変お世話になったので、招待券を進呈しようとしたら、
自分ではなく「よめはん」に聴かせたいという。
それなら、お揃いで…と言ってみたが、子どもが小さくて無理らしい。

 “よめはん、独りんときエレクトーンを習ろてまして…、
  オンガク、好きなんですワ。けどいまコドモちっちゃいですから、
  コンサートとか行かれしません。
  久しぶりに、こんなん聴かせてやりたいんですワ”

…と言うので一枚だけ受け取ってもらった。


コンサートは日曜の午後だった。
当日、会場の前にいると、彼が小さな車でやってきた。

いつもはグレーの作業着だったのが、ベージュのスーツが長身に似合って、
えっ?…と思うくらい、コンサートのお客さまらしくキマッている。
後から、ヒラヒラふんわり装ったスイトピーみたいに可愛らしい「よめはん」が、
一歳半くらいの女の子を抱いて降りてきた。


親子三人? 一瞬、私は戸惑った。
このコンサート、お子様お断りなんだけど…どうしよう!

 “いやぁ、ボクは付き添いデス。
  よめはんが聴かしてもろてる間、
  そのへんで子どものお守りしてますワ”

屈託の無い顔で言うと彼は、「よめはん」から女の子を受け取った。


会場は京都、阪急嵐山線上桂に近い青山音楽記念館。少し歩くと美事な竹林が、
道をはさんで高いアーチを作っていたりする鄙びた散策地。遊園地など無いのに、
ほんとに彼は、「よめはん」がコンサートを楽しんでいる間、会場のそばで
子どもと遊んでいたらしい。終わると三人でニコニコと帰っていった。


「よめはん」というと、いつも、この彼を思い出す。
家族の中で、配偶者である女性を「嫁」と呼ぶことに、私は抵抗があるのだけれど、
温かな彼の声でインプットされた「よめはん」は、私にとって「嫁はん」ではなく、
「yome−han」なのかもしれない。



ワイフまで行きたかったのですが、またまた話が長くなってしまいました。
つづきは次号に。題は「ワイフと嫁」のつもりですが、気が変わるかも…

と思っていたら、やはり気が変わって、次回の題は「嫁の年越し」。
ワイフについては、次回、次々回に。





 B 
年越し


1月はお休みを頂きました。
3月発売予定のCD「ひらがなの手紙・3」の制作で忙しかったのですが、
お蔭で、お正月ネタを書きそびれてしまいました。些か書きたいこともあって、
心残りなので、遅ればせながら今回書かせて頂きます。




 “関西の‘おせち’っておいしいんです”

関西人の友人の奥さんが言う。奥さんは東京人だ。


 “そやろ…東京のは甘いばっかしや。
  あんなんで、どないして酒呑むねん?”

友人は呑んベエだ。気持は分からないでもない。


東京の「おせち」は、お正月の約束事だが、関西の「おせち」は実用品だ。
つつましい家でも、一の重は縁起物、二の重がお煮しめ、三の重が魚介類や肉…と、
三が日それだけで楽しめるように、思いつく限りの御馳走を取り揃える。
きんとんも黒豆も、甘いばかりでなく素材の味が生きているし、昆布巻も、
お生酢や数の子のようなシンプルなものも、何ともいえず美味しかった。


 “お煮しめも、おいしいんです。
  私、おぼえたんです”

奥さんの声に熱がこもる。そうでしょうとも…
生真面目にメモなんかとってるところが目に浮かぶ。


材料は、人参、牛蒡、大根、蓮根、竹の子、椎茸、慈姑(くわい)、
小芋、こんにゃく、高野豆腐、ふき、絹さや(さやえんどう)…etc.

鰹節、昆布、鶏ガラの三種類の出汁と、干し椎茸の戻し汁を、材料ごとに
様々に組み合わせ、調味料は、みりん、酒、砂糖、塩、淡口(うすくち)醤油、
濃口(こくち)醤油を使うのだけれど、素材に合わせて味付けを微妙に変えて、
一品ずつ煮る…というか、関西風に言うと「たく=炊く」。

日持ちを考えて、ふだんより味付けは濃いが、それでも東京に比べれば控えめ。
人参のコク、大根の微かな苦味、ふきの香り、舌に残る慈姑の味、こんにゃくや
蓮根の歯ざわり、お酒に好し、それだけ食べても楽しめる。


 “お野菜だけでも十種類以上でしょ。
  洗って、皮をむいて、下ごしらえして、
  ありったけのおナベ出して、ガスレンジフル回転で、
  大晦日は一日立ち詰めなんです”

 “毎年叱られまんねん…
  紅白はじまってもコトコトやってますやろ
  年越しそば出てくるまで、まだ時間ありそやし、
  待ってよ…思てコタツ入って一杯やりますやないの
  テレビ見て笑ろたら叱られまんねん…アナタはイイわネ!…て”


やれやれ、なにもそこまで頑張って全品目揃えなくても…と思うのだが、
なにしろこの場合、学習の成果を披露するチャンスは、年に一度きり。
テキトーにしては?…なんて、言っても耳に入らないでしょうね、たぶん。


そんなにして作る「おせち」なのだが、

 “二日にならないと食べられないんです”

と、彼女は口を尖らす。

友人は三男坊。お元日は一族揃って本家で祝う。
元旦の朝は、お雑煮も早々に、片道2時間余りの実家へ向かう。
お座敷には、お姑さまお手作りの「伝統的おせち」に加えて、長男のお嫁さんの
土井勝料理学校仕込みの、モダンで美味しいお料理の数々が並ぶ。

男たちは、どかっと座って酒を呑み、三人の嫁さんは、立ったり座ったりして
その世話をしながら、合間に自分たちも食べたり呑んだりして楽しむ。
すっかり朗らかになった夫と家に帰り着くのは深夜。
明けて二日の昼ごろ、やっと「うちのおせち」の出番となるのだそう。


 “もう、二番煎じじゃないですか。
  せっかく作っても、ぜんぜんツマンナイんです”

と、憤懣やるかたない。
そんなら止めちゃったら?…と言ったら、
そうじゃないんです…と奥さんはニンマリ笑った。


 “一日早く作ることにしたんです”

 “?”

 “30日に作っちゃって、31日に食べるんです”

 “??”

 “掃除も31日の夕方までに済ませちゃって
  紅白の時間には、お重を広げて、私もコタツに入って、
  二人で忘年会することにしたんです。
  ゆっくり二人で‘うちのおせち’を食べて、
  仕上げに‘年越しそば’食べてると、
  除夜の鐘がゴ〜ンとか聞こえてきて…いいですよぉ”

そんなのアリ?…と思ったが、言うのはやめた。
気持は分からないでもない。

それより、生真面目な彼女が、夫と二人で忘年会なんかするとは思わなかった。
あんまりお友だちになれない人かと思っていたけれど、そうでもないのかも。
今度カラオケにでも誘ってみようかしらん?




皆さん一斉に「先祖がえり」するのが、お正月かもしれない…と思うことがあります。
着物を着る、初詣に行く、一族集まって、「ワイフ」が「嫁」になったりします。

ところで、英語には「嫁」って言葉が無いらしいです。
お次はその辺から…。


次回のの更新は、3月1日の予定・・・だったのですが、
CD発売に加えて、パソコンにトラブル発生。解決はいたしましたが、
とてもではないけれど落ち着いて冗談を書ける状況にございません。
誠に勝手ながら、更新は4月1日に延期させて頂きました。

それにしても、会社が変わると画面の色って変わるんですね!
なんとも明るくて華やかな色合いに、ビックリしています。

トップページの壁紙なんて、かなり渋いお抹茶色のつもりだったんですが、
いやぁ・・・パァッと明るいグリーンで・・・
NECさんって、関西系でしたっけ?





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