「堀江はるよのエッセイ」

〜日常の哲学・思ったこと考えた事〜




二十の巻

マリエンヌ

今年のこと

冬から春






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マリエンヌ


  一昨年から昨年にかけて、組曲を一つ書いた。
  古典舞曲の形式で、小さなドラマになっている。

  時代は中世。
  舞台はフランスの地方都市。
  主人公は、あるお屋敷の小間使いの少女。

  お屋敷にはチェンバロがあって、その美しい貴重な楽器を、
  柔らかな布でそっと拭くのも、彼女の仕事。

  年は十五か六、でも曲の終わりには十七か八になっているだろう。
  南フランスの生まれ、葡萄畑のある村で育った。


  考えてみると、名前を持った人物の登場する曲を書いたのは初めて。
  作曲を始めるときから既に題名は決めていたけれど、その一部分である
  少女の名前が決まらない。フランス文化について深い知識を持つ友人に、
  ストーリーや少女の性格を話して、名付け親になってもらった。

  友人の選んでくれた名前は、マリエンヌ。
  決まった題名は、「マリエンヌの打ち明け話による組曲」。
  制作中のCD「ひらがなの手紙5・リコーダーとチェンバロ」に収録。


  新田和繁さんのブログで、マリエンヌの姿をご覧いただけます。
  どうぞマリエンヌに会ってやってください。
          ↓
   http://kazustudio.exblog.jp/d2011-08-23/



                              2011.9.1



今年のこと


  片付けが苦手だ。

  ピタッと、まるで時間が止まったように片付いている家に育ったので、
  そんなふうに整理整頓するのが良いこと…という感覚はあるのだけれど、
  どうも私の場合、心と居場所が連動しているらしい。
  思い悩むと部屋が散らかる。

  先日も、心が千々に乱れるようなことがあって、部屋がゴチャゴチャになった。
  きれいにしたいけれど、心はそのままにして居場所だけ片付けようというのは、
  私の自然に反するらしく、何だか異様にエネルギーを要する。
  出来ることなら悩みの原因から片付けたいけれど、それはちょっと無理で、
  仕方がないので行き当たりバッタリに、出ているものを手に取っては、
  
   “おまえさんは、どこから来たの?
    あ、あそこの引き出しね。
    ハイ、お帰り”

  …と、問答しながら一つずつ片付けていった。
  
  エネルギーの切れたところで、まぁ今日はこれまで…と途中終了。
  次の朝、起きてみたら、何となく部屋がスッキリしている。
  昨日の努力は無駄でなかったんだなぁと嬉しくなった。

  何か連想するものがあると思ったら、建築工事の現場だ。
  工事する人たちは一日の終わりに、混乱した現場を出来る範囲で片付けて、
  空いた地面を掃き清めて帰ってゆく。明くる日には、また混乱が始まる。
  せめてもの片付けと、已む得ない混乱を繰り返しながら、工事は進んでゆく。
  そうか、私にとって毎日は、工事現場みたいなものなのかもしれない。
  雨が降って今日は休み…なんてこともあったりして。

    *     *     *

  今年は、しんどかった。
  世の中全体が、頭に重いものを載せているような気分になっているときに、
  さしあたってお腹を満たすわけでもなく、皆が争って欲しがるわけでもない
  音楽を、書いてCDにして売ろうというのは、些か力のいる…いや、力量と
  いう意味ではなく、精神的腕力みたいなものを要する仕事だった。

  時々、心がカチコチしてくる気がして、ほぐしたくて良く歩いた。
  近くに良い公園がある。都の案内からコピーしよう。


     ★ 善福寺川緑地
   
     善福寺池を源とする善福寺川が、杉並区の中ほどで
     大きく蛇行する辺りに、川に沿って善福寺川緑地と
     和田掘公園が広がっています。
     帯状に続く二つの公園は、全長約4.2km。
     武蔵野の面影を残す木立と子供の広場が交互に現れ、
     整備された遊歩道でつながれています。
     春のサクラから秋の紅葉まで、
     四季の変化を楽しみながらの散策に最適の公園です。

  
 
  樹木数は、6400本、5900平方メートル+18300株
  主な植物は、サクラ、エンジュ、トチノキ、ユリノキ、コデマリ、
  ハギ、モクセイ、ユキヤナギ、ハクウンボク…とあるけれど、
  これは開園当時の記述なのだろう、今はもっと多い。

  ツバキ、サザンカ、ウメ、モクレン、タイザンボク、ケヤキ、メタセコイヤ、
  思い浮かぶだけでもこれだけある。東京都さん、更新をサボってませんか?
  なんとも葉の形の美しい木があると思ったら、カツラだった。

  都の案内には、芝生の広場のようなところに、ひょろひょろと丈の低い木が
  疎らに並んでいる写真が載っているけれど、これも開園当時のものだろう。
  ケヤキなど、今は小学生が二人で抱えて、やっと届くかという太さになって、
  4階建ての建物を越しそうに育った木立が、梅雨の頃には緑の天井を作る。
  少しの雨なら傘はいらない。


  昨日、久しぶりに歩いたら、木々はすっかり色づいていた。

  イチョウの黄、メタセコイヤの淡いオレンジ色、ケヤキの茶、
  モミジの橙色と朱と赤、サザンカの花の黄と紅、
  濃い緑の葉の間に、鈴なりに見える昔懐かしい丸い小さな柿、

  街中の一角だけれど、全山紅葉…という趣き。
  夏の台風では大木が根こそぎ倒れたり裂けたりしたが、
  その跡も、どうやら修復されたようだ。

  川沿いのフェンスが高くてしっかりしたものに替えられたのは、
  異常な大雨に備えて、増水時に土嚢を積んで水を防ぐためだろうか。

  年が改まったからといって物事が解決されるわけではない。
  出来る限りの努力と、已む得ない混乱を繰り返しながら、
  新しい年も、心をこめて生きてゆこう。


                              2011.12.15


冬から春


  新しい曲を書いている。
  楽器は、リコーダーとチェンバロ。
  ドラマティックな組曲。ただいま二曲目を書き終えたところ。

  一曲目は冬、二曲目は春、それなら次は夏かというと、これが分からない。
  物語としての大まかな設定は決まっているけれど、それを自分がどのように
  脚色するつもりなのかは、私にも未だ分かっていない。

  そんな書き方になることが、時々ある。
  でも無意識の領分では、カッチリと設計図が出来ているらしい。
  思いついた音やフレーズが、正しく選択されていれば「次へ」の表示が出て、
  誤っているときには「次へ」も「OK」も「キャンセル」も出ず、已む無く
  その「画面」を閉じることになるのは、パソコンと似ている。

  パソコンもそうだが自分の頭も、中がどうなっているのか見えない。
  フリーズしてしまったら強制終了して、後ほど再挑戦する。


  気分転換には、台所に立つことが多い。、
  夕食の下ごしらを早めに始めたり、常備菜にヒジキを煮たりする。

  お料理に取り掛かる前に、“おいしいものを作ろう!”と宣言する。
  こう宣言するのとしないのとでは「作品」のお味が随分と違ってくるのに
  最近気がついた。スポーツで言えば、気合を入れて行こう!…みたいな感じ。
  五線紙に想いを残していると、どうも一味落ちる。

  いろんな作曲の仕方があるけれど、私の場合は、家事を間に挟むことで
  カリカリと煮詰まるのを避けながら書くのが、今の体力に合っている。
  闇雲に集中したい気持を、沸騰するお鍋の蓋をずらして蒸気を逃がすように、
  うまくいなしながら、自分を強火にしたり弱火にしたりして作曲している。

  組曲の三曲目は、チェンバロは休みで、リコーダーのソロ。
  全体では五曲になる予定。最後は再び冬。完成は年末のつもりだったけれど
  今の速度からすると、もっと早く書けてしまうかもしれません。

  素敵な曲です。乞うご期待!


                              2012.3.19


     
この組曲は、書き進めるうちに「全体で五曲」が七曲となり、
       伴奏の楽器も、チェンバロでも演奏できるよう配慮しつつ、
       ピアノに変えた。詳しくはこちら「鶴によせて」の解説に
       これから書く予定です。 (2013年1月・記)




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