古典組曲 |
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ピアノ独奏
13分
1989年
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ブランクの後に初めて書いた作品。
演奏を依頼したピアニストさんを訪ねての帰り、
夙川の土手の満開の桜の下を、夢を見ているような気持で歩いた。
“書けているはずだ”という確信はあったが、それが…自分の磁石が、
間違っていなかったのを確認して、嬉しかった。
あのときから私は、
考えて考えて辿りついた小さな確信と、
“まちがっていなかった…”という小さな喜びの間を、
振り子のように往復しながら、作曲を続けてきたような気がする。
この曲をもとに、私はピアノ・デュオ「古典舞曲へのあこがれ」を書いた。
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古典舞曲への
あこがれ |
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ピアノ・デュオ
1台4手
13分
1990年
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ある日、少年の私は焚き木をとりに山へ行く。
道に迷って辿りついた崖の上から、ふと見下ろすと、
そこには寝殿造りの御殿があって、緋の袴をはいた女房が渡殿を行き来している。
平家の落人の末裔である彼らは、数百年前に隠れ住んだこの里で、
世の遷り変りも知らず、昔と同じ暮らしをしているのだった。
砂浜に銀貨が輝く月の夜、沈んでいた難破船が浮かび上がる。
明かりが輝き、音楽が聞こえ、小船で近づいてみると中では
数百年の昔そのままの装いの貴族や貴婦人が、笑いさざめきながら踊っている。
……こんな空想を、小さい頃から私は、ずっと楽しんできた。
アルマンド、サラバンド、メヌエット、ジグといった舞曲を、
一定の順で並べて一まとまりの曲とするバロック以来の器楽曲の形式の一つ、
古典組曲で書かれたこの曲は、そういう私の空想の「つづき」だ。
古風な衣装が縫われ、髪が結い上げられ、
広間には花が飾られて、何百という蝋燭がともされる。
ただよう香り、衣擦れの音、様々な想いを込めたまなざし…
暗闇に浮かび上がった「昔の世界」は、最後の音と共に消える。
* * *
大学で書いた最後の課題は、古典組曲だった。
再び書くようになった私は、同じ所から始めたいと思った。
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感謝 |
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「古典舞曲へのあこがれ」の作曲によって私の前に、
ピアノと、更にギターとリコーダーへの道が開かれた。
この曲にふれて、無名の私に、
ただ私の音楽への共感から手を差し伸べてくれた人たちによって、
作曲家としての私の世界が広がっていった。
作品を通して人と出会い、切っかけを与えられて新しい曲を書き、
その曲を通してまた、新しい人と出会った。
沢山の人に助けられて今の私がある。
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