〜堀江はるよの音楽・作曲その周辺〜




筆者の出版物


小学校

夏はあついよ 

アラビアの王子

革命の乙女 

消滅





堀江はるよのコンサート

文字放送版



  
 小学校 
夏はあついよ  

 歌  12秒























  

 小学一年のときに作曲。

 口ずさんだものを親が書き取った。譜面は残っていない。
 素人なので無理やり三拍子かなんかに納めてしまったらしいけれど、
 いま口ずさんでみると、(123・456)(12・34・56)で、
 ヘミオラ(バロック音楽でよく用いる一種の変拍子)になっている。

 これと全く同じヘミオラを、私は44歳のときに、ピアノ・デュオの
 「古典舞曲へのあこがれ」の中のメヌエットで、テーマとして使っている。
 このことに私は、ごく最近気がついた。

 6歳の私は、どこでヘミオラをおぼえたのだろう。
 家にバロック音楽といえば、バッハのレコードが一枚あるきりだった。
 それで「甘き死よ来たれ」を繰り返し聴いたのは、中学生になってからだ。
 かけっぱなしだったラジオの落語や浪花節、歌舞伎や少女歌劇の中継は、
 幼い私の心に、幻燈のように不思議な絵を残したけれど、
 バロック音楽は、おぼえていない。

    ♪ なつは あついよ うみに はいろう 
       およげぬ こどもは うきぶくろ ♪
 
 幼いころから私にとって、言葉は歌うもの、歌は踊るものだった。
 私のヘミオラは、母国語から来たのかもしれない。

アラビアの王子

 歌
     16秒















  

 ドーナツのような形にターバンを巻いた少年が立っている。
 ゆるやかなズボン、つま先の尖った靴、腰には短剣。アラビアの王子だ。
 あたりは砂漠、円錐形の…インディアンのに似た…テントが一つ。

    ♪ アラビアの 王子さま 
        おどります 楽しいげに ♪

 「伴奏がいるなぁ。」私は考える。
 「アラビアだもの、笛とか太鼓。家来がたくさん居て…」
 でも、見るところ王子は一人ぽっち。私も一人ぽっち。それらしき楽器もない。
 「ま、いいや…」空想の世界と現実が、私の中で一つになる。

    ♪ 笛や太鼓は ないけれど
        エイヤホ エイヤホ おどります ♪

革命の乙女  

歌と踊りとピアノ
      1分























    

 小学三年くらいに作曲。

 即興曲。不完全な譜面があったが失くしてしまった。
 前奏は嵐のようなパッセージ…にしたいのだが、方法が分からなかった。
 古い小さなピアノのガクガクの鍵盤を、
 練習不足の子どもの指の動く限りの速さで行ったり来たりして、
 イメージの上では急速な下降の後、激しい歌に入る。

    ♪ かくめい〜の た〜めに〜  …で〜 きた〜 ♪

 点線部分は思い出せない。“苦しんで”かもしれないが、
 作ったときから適切な言葉が見つからなくて、毎回違うことを歌っていた気もする。

 つづいて、ピアノ伴奏は頭の中に移行する。
 ピアニストの私が踊り始めるので、演奏する人が居なくなってしまうのだ。

 激しいパッセージとアルペジオは、私の頭の中で鳴り続け、
 ロシアかフランスか、革命を逃れてきた乙女は、父を、母を、恋人を失った苦悩を、
 小学生の想像力のありったけ、歌い、踊り、ついに悲しみの余り地に倒れ伏して
 曲は終わる。

 倒れ伏したときの畳の感触が、腕の内側に、今も残っている。

消滅

 ?
     0秒






















   「こんな音はナイ!」

  甲高い声が頭の上から降ってきた。
  叫んだのは若い男の先生、私は小学二年か三年。
  勇を鼓して「作品」を見せたら、こういうことになった。

  わけがわからなくなって、それっきり、この作品は消滅した。
  大人になってノートを見なおしたら、何のことはない、明らかな書き間違いで、
  音が一つ、オクターブ高く記譜されていた。

  叫ばなくたって…と思ったが、それで芽を摘まれたわけでもない。
  音を書こうとする気持を挫くようなことは、自分の内にも外にも、
  数えるのも面倒なほど沢山、その後もあったし、今もある。
  25年もの間、諦めたつもりで過ごしたこともあったけれど、
  書きたい気持は、消えなかった。

  熱意とか意欲とかいう言葉は、私にとって音楽から遠い。
  生きていると、小さな火が燃える。
  それが、音になる。


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